詩『鳥を捕るひと』 水野るり子 (宮沢賢治・銀河鉄道の夜)より ・ 詩集「ユニコーンの夜 に」から [詩]

「鳥を捕るひと」 宮沢賢治(銀河鉄道の夜)より   水野るり子


銀河鉄道に乗りこんできた
鳥捕りのおとこは
捕獲したばかりの
サギや雁たちの荷をほどき
あの世へゆく客たちに振る舞った
ぺキペキと折られた
押し葉のような鳥の足を
おそるおそる口のなかへ入れるたび
子どもたちの舌の上で
それはほんのりと 
甘く 溶けていった・・・
(ものがたりのその時間に
いくたびも戻って来られるように
私はその頁に折り目をつける)
だが鳥捕りの
それからの行方はわからない
列車は今も茫々と
天の河原を回りつづけ
折々サギたちの声がするばかり
(鳥捕りは一介の商人だったが)
けれども
くりかえし くりかえし
車輪の回る音が
にぶくつづくだけの真昼
夢の片すみで
うすももいろの糖菓子を
ひっそりかじっている子供がいて
そんなとき 私は
(どこまでも どこまでもいっしょに)
その汽車に乗っていきたくなる)



どこもかしこも、詰問の嵐が飛び交っているのにも関わらず、何も伝わっていないように感じられる昨今。
ほとばしるエネルギーが空回りし、奈落の底の退屈地獄に堕ち込んでしまう逢魔が時。
この詩を再読するとすっとする。息を吹き返すことができる。
ここら辺りが、原初の森なのかもしれないと、繭の中でまどろみながら思う。

この世とあの世、または覚醒時と夢の間に立ち、古代や未来の生物や残留想念とも交流しながら、わずかに揺れ動く映像と音を伝えてくる水野るり子さんの現代詩。
掬えば掬うほど、こぼれ落ちる息づかいが、かすかな音を立てる。
宇宙音楽のようになつかしく木霊し、胸にいくつもの波紋を呼び起こす。

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