詩「にょしんらいはい」 小川アンナ  ぺッパーランド編「母系の女たちへ」 現代企画室 から [詩]

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「母系の女たちへ」ペッパーランド編(現代企画室・1992年12月15日初版)


詩「にょしんらいはい」 小川アンナ

おんなの人を きよめておくるとき
いちばん かなしみをさそわれるのは
あそこをきれいにしてやるときです
としとって これがおわりの
ちょうどふゆのこだちのように しずかなさまになっているひとも
おばあちゃんとよんでいたのに おもいのほかにうつくしい ゆきのあしたのように
きよらかにしずまっているのをみいでたときなどは
ひごろいたらなかったわたくしたちのふるまいが
いかにくやしくなさけなく おもいかえされることでしょう
そこからうまれた たれもかれもが
けっして うみだされたときのくるしみなどを
おもいやってあげることなどなく
それは ひっそりと わすれられたまま
なんじゅうねんも ひとりのこころにまもられていたものです
てもあしもうごかず ながやみにくるしむひとのかなしみは
あそこがよごれ しゅうちにおおうてもなくて
さらしものにするこころぐるしさ


いくたびもいくたびも そこからうみ
なやみくるしみいきて
いまはもうしなえたそこを きよめおわって
そっとまたをとじてやるとき
わたしたちは ひとりのにんげんからなにかをしずかにおもくうけとって
いきついでゆくとでもいうのでしょうか



詩人 小川アンナ(1919~ )
詩「にょしんらいはい」を初めて読んだのは、「母系の女たちへ」ペッパーランド編(現代企画室・1992年12月15日初版)を詩人の水野るり子さんにいただいた時である。 
詩「にょしんらいはい」は、冒頭に掲載された詩で、心構えや覚悟を噛みしめた。
亡くなった女性たちの姿が次々に浮かび、そのことによって、この詩は私にとって、その人たちが生きていたことを確認するためのお経のようなものになった。
「母系の女たちへ」ペッパーランド編は、詩人の水野るり子さんが主に携わったと聞いている。
17人の女性詩人たちが、母への思いを、詩とエッセイで綴っている。
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