詩「もう馬鹿ジャコと呼ばないで」  狩野敏也 第十詩集「もう翔ぶまいぞ」より 2012年11月30日発行 [詩]

日常詩派と難解詩派の深刻癖による面白みのない詩ばかりが云々と囁かれている詩界の昨今、いただいた狩野敏也詩集「もう翔ぶまいぞ」の帯に書かれている言葉が、我が理想とする詩境だったためビシッとなり、欣喜雀躍した。


<詩集「もう翔ぶまいぞ」の帯の言葉>
「虚実皮膜を縫い合わせ、正史と矛盾しない稗史や異説も大胆に取り込んで、亡霊へのインタビューすら辞さない。動植物は無論、抽象名辞まで擬人化して語らしめ、修辞・諧謔の秘術を尽くした会心の作」

童話「銀河鉄道の夜」ではジョバンニ側の心情をたどり、童話「クンネズミ」についてはクンネズミ側のくやしさ、どうしようもなさをたどることにしているが年を越してしまうことになった。

2012年、最後に見た面白い映画は「ホビット 思いがけない冒険」だった。
住んで見たくなる懐かしい家、岩山や滝の絶景、霧ふり山の地底湖に棲む2重人格の怪人ゴラムの謎かけやスペクタクルが強烈だった。

2012年、食べたもので絶品だったものは友人の御母堂が作って下さった「ぜんまいの煮物」
日光を存分に当て最小限の水で手塩にかけて育てた知人のみかん山の、ぐみ味と木イチゴ味と小みかんの味の混ざった完熟蜜柑。
仕事で好きになった曲はウエーバーの「狩人の合唱」(3部)など





詩「もう馬鹿ジャコと呼ばないで」 


キビナゴ
(黍魚子の中でも、器量よしだったつもりのわたし
なぜか長いこと「馬鹿ジャコ」と呼ばれていたの
だけど 魚類学会の先生方が
「琉球キビナゴ」って改名してくれた
嬉しくって もう、馬鹿ジャコと呼ばないで・・・と
思わず叫んでしまったわ


そうなのだ
アホウドリとかナマケモノとか
動物名の差別表現を改めよう
という動きが学会にあり
まずは 日本魚類学会の手によって
一挙に五十近くの魚の改名届けが出された

≪魚の世界は進んでいます
変わりましたねえ 随分と 種名ばかりか
属名も科名もぞくぞくと変わりましたよ
ラレリルレロラロ
口の体操をしてから舌を嚙まずに読んでご覧
傍点のついたところが、いけないのですって・・・≫

・  ・ ・ 
メ ク ラウナギが→ ホソヌタウナギに

    ・  ・ ・
オキナメ ク ラが→ オキナホソヌタウナギに

・ ・
オシザメが→チヒロザメに

     ・  ・  ・
ロケット イ ザ り ウオが→ロケットカエルアンコウに

・ ・ ・
セ ム シ ダルマカレイは→オオクチヤリガレイに
     ・・ ・・ 
猫背のセッパリ カジカは→ミナミコブシカジカに


≪ だけど 硬骨魚目のおじさんがたからは鋭いクレ―ム
 ・ ・ ・
『テナシ ゲンゲがヒレナシゲンゲに変わったが
魚に手などない ヒレの無い魚にヒレ無しと言うのは
魚に対する差別語じゃないのかね
皮を剥いで調理するからカワハギなどという
酷い名前も残っておる』とね ≫


≪そして こうも言われたわ
『琉球キビナゴなんて自分だけいい名を貰って・・・
はしゃいでいるばあいじゃないぜ・・・
こんな名じゃ魚が可哀そうだというんで
変えてくれた訳じゃ ないのだよ
こりゃあ 人間のご都合次第なのさ』≫

≪だけど 滅入っている私に
明るいニュースが入った
いや驚いたわ
恐れ多くも一介の魚の学名に
天皇の名が付いたのですよ
神武天皇以来 未曾有のことではないですか≫

2010年の暮れ 豪州の2名の学者が
ハゼの研究者として著名な陛下に
敬意を表明
新種のハゼの学名を
「ブリオレピス・アキヒトイ」と命名
日本魚類学会の英文誌に発表したのだ

≪その天皇さまが 今度は
絶滅種のクニマスを70年ぶり
奇跡的に山梨の西湖で再発見した
サカナクンに名指しで
お褒めの言葉をかけて下さったりして・・・
このところ魚族の地位はぐーんと上がった感じ≫

≪そう言えば最近
錦鯉に紋次郎とかお鯉とか
呼び名をつけることがはやっているとか
そういうところもファ―ストネームだけで
姓のない皇室とそっくりではないですか
なにか魚心にも親近感を覚えますねェ≫


*日本魚類学会は2006年魚の標準和名49語を改定した
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