賢治研究家の探石行の話 「宮沢賢治宝石の図誌」より 著・板谷栄城 [本]

<石の愛好家が、小耳にはさんだ黄玉(きだま 玉髄のこと)にやっと出会えるまでの話>
★「宮沢賢治宝石の図誌」の著者・板谷栄城氏が本格的に宮沢賢治の研究をするようになる以前のお話。


友人曰く 「もちろん滝沢(盛岡の西隣 鬼越)の黄玉(きだま)はお持ちでしょう?」
板谷氏 「いや。持っていません。滝沢で、そんな石が出るんですか?」 ~略~
友人 「磨くとトロッとした艶が出てきましてね」

玉髄1.jpg

友人は黄玉が出る場所をとうとう教えてくれませんでした。
板谷氏が、盛岡市の市立図書館で、「野村胡堂氏(銭形平次捕物帳の作者)寄贈」の棚にあった「南部叢書」を、ぱらぱらとめくっていると、鵜飼村の所に・・・古来火打石を産す・・・とあるではありませんか。
ついに燧掘山(カドホリヤマ)と言う地名を発見することができました。
燧(カド)とは火打石のことです。

燧掘山(カドホリヤマ)の北側の斜面から小さな川が流れており、滝沢村の中心部(鬼越峠の旧道沿い)に流れ込んでいます。
火打石のズリ、つまり掘った時の屑石が、それに流れ込んでいるかも知れません。



ゴム靴をはき、ガラス底の覗き箱を釣り具屋で買って、「この雪の中で、カジカ突きですか」とか「何か落としたんですか」とか言われながら、一心不乱に水底を覗いた板谷氏は、思わず息を止めました。
トコロテンの破片のような半透明なもの(石)が、鈍い光を放っているのを見つけたからです。
逃げるわけでもないのにソーッと手を伸ばし、拾い上げて見ると、それはまさしく玉髄(ぎょくずい)の破片でした。

★山菜、きのこ、木の実は自分で見つけられると嬉しいですね。
生前は親にも子にも在り処を教えず、亡くなる時、一人だけに教えると言われています。

燧掘山(カドホリヤマ)の掘り跡は、山頂との間にあるはずであると推理したので、雪解けを待って出かけました。
30分ほど登ると、10畳ほどの小さな平地に出ました。
そこには玉髄(ぎょくずい)の破片が散らばっており、目の前の崖に人一人がやっともぐり込めるぐらいの小さな穴が空いています。略

かどほりやま.JPG
燧掘山(カドホリヤマ)

かどほりやま2.jpg
燧掘山(カドホリヤマ)


数日後、懐中電灯やハンマーを持って再び訪れ勇気をふるって(穴に)もぐり込みました。略
天井にライトを向けると、昔火打石を掘った人たちの松明の煤(すす)がいっぱいついています。
その煤の間から覗いている白い石の脈をハンマーで叩くと、火花を飛ばしながら砕け落ちました。
それはまさしく玉髄(ぎょくずい)でした。


宮沢賢治短歌(13歳・明治42年)
鬼越の山の麓の谷川に瑪瑙のかけらひろいきたりぬ

★石ッコ賢さん(賢治)は、鬼越峠の先の燧掘山(カドホリヤマ)まで足をのばしていました。
13歳で瑪瑙(玉髄に縞が入ったもの)を知っていました。
★玉髄には、白(乳色)、黄、緑、青玉、雲の峰状の鍾乳石タイプ(ハンマーでたたくとパカッと2つに割れ、中から入道雲そっくりの美しい玉髄の群れが現れます)があります。
「宮沢賢治宝石の図誌」には、写真付きで説明されています。


下記の文内にある賢治心象童話「水仙月の4日」の中の・・・像の頭の形をした・・・は、「燧掘山」(カドホリヤマ)を心象モデルにしています。3つあります。

○ひとりの子供が、赤い毛布(けっと)にくるまつて、しきりにカリメラのことを考へながら、大きな象の頭のかたちをした、雪丘の裾すそを、せかせかうちの方へ急いで居りました。

○二疋(ひき)の雪狼(ゆきおいの)が、べろべろまつ赤な舌を吐きながら、象の頭のかたちをした、雪丘の上の方をあるいてゐました。

○雪童子(ゆきわらす)は、風のやうに象の形の丘にのぼりました。

「宮沢賢治宝石の図誌」の著者は、「もし私が賢治のこの短歌を先に知っていたら、燧掘山(カドホリヤマ)を突き止める苦労などはまったくなかったわけで、何となく自分の推理の値打ちが下がったような気もしないわけではありません。
しかしそれよりも、同じ場所に同じ石を拾いに行ったという強い親近感の方が、賢治研究に弾みをつけてくれました。」とおっしゃっています。

また「芸術的な科学者と言うのは、インスピレーションによって真理を探究してゆくというタイプで、その辺が技術者的な科学屋とちがうところです」とおっしゃっておられます。かなり手厳しいですね。
芸術的な科学者の例として、ガリレオやファラデー、アインシュタインの名をあげています。

羅須地人協会時代に賢治が講義した「農民芸術概論綱要」については、多くの青年は理解しなかったようです。



~~つづく~~~

柴犬カンチの足跡日記
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