名子役 熊田聖亜(せあ)ちゃん 凛とした声の娘   映画「さや侍」  監督 松本人志 2011年 [映画]

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映画「さや侍」 監督 松本人志 2011年



はやり病で妻を亡くした侍の勘十郎は、生きてゆく気力を失い、伊香藩を脱藩し、行くあてもなく彷徨いながら多幸藩にたどり着く。
勘十郎役は、全くの素人の野見孝明で、監督から台本も渡されず、映画用の撮影をしていることも知らされていなかった。
伊香藩(いかはん)と多幸藩(たこはん)は、耳だけで聞くと、海産物のイカとタコなどが思い浮かんで、監督はお笑いの松本人志氏なので「ははあ」と納得した。
面白がれるって言うことは私とってはいいことだ。
脱力して侍を捨て、刀のさやだけを腰にした父を、娘のたえは軽蔑しており、潔く腹を切ることを、心に突き刺さるようなきりりとした声で叱りつけながらすすめ、それでも仕方なく何もしない父のあとに、つかず離れずついて行っている。
父のふがいなさを言いたてる娘の美声には説得力があり、聞き惚れるほどだ。
気丈な娘のたえは、家の者たちに教えられた武士の心得を、父にただすだけで、妻に去られた勘十郎の絶望や深い悲しみはわからない。
亡くなった御母上が娘のたえに、侍の娘の心得を説いて聞かせていたのであろうか、たえが御母上を恋しがって泣いところを一度も見たことがない。


勘十郎は脱藩したかどで懸賞金までかけられたおたずね者となっており、賞金稼ぎたちにも追われる始末、とうとう多幸藩に捕まってしまう。
いよいよほんとうに切腹を申しつけられるのだが、多幸藩には、病で母を失い虚脱状態になった若様がいて、もしその若様を30日以内に笑わせることができたら無罪放免にしてもらえることになった。
娘のたえは小学生で言えば高学年の5年生くらい、若様は1年生ぐらいだろうか(もっと若いかもしれない)
若様を笑わせるための一芸が、30日の業と名付けられて始まる。
1日目はみかんを目にトマトを口にはめ込む芸、2日目はうどんを鼻で食べる芸(お笑いのほっしゃん指導)などの一発芸から始まり、21日目は海岸で、勘十郎が大砲の弾になって海中に落ちる芸を披露するが、若様は笑わない。
何かと世話を焼いてくれる2人の牢番もアイデアをくれるようになり、沿道の民衆にも支持され声援を受けるようになり、勘十郎は無罪放免になるのではないかと言う期待を持たせてくれる。
娘のたえは、薬草に詳しいので、若様に気鬱の病の薬を渡すし、若様の好きなのは赤い風車だと言うこともわかり芸に生かそうとするが失敗に終わる。
家老も殿さまも勘十郎をどうにかして助けようとし、味方に付いたかのように見えた。
若様が笑わないまま、とうとう30日目が来てしまい、最後の日も一芸をやってよいことになった。
辞世の句(切腹し、介錯人に首を落とされる前に、句や漢詩や和歌を詠んで後世に残す)を詠む時になっても、勘十郎は無言のままである。
きっと何か面白いギャグを言って、みんなを大笑いさせてくれるに違いないという期待は裏切られる。
娘のたえは、「何か言ってよ」と必死に頼むが、勘十郎は何も言わず、自分の体をもって笑いに変えるのだ。
その時、若様は、はじめて笑う。
人々は、意表を突かれた後に、平凡だが思いがけないことが起こると、つまりすってんころりんと転んだり、ころころ転げたりすると大笑いするものなのだ。
勘十郎がどうなったのかは、興味のある人が自分で確かめなくてはならないだろう。


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