詩「雨の旅」 水野るり子 詩誌 ひょうたんより [詩]

詩「雨の旅」  水野るり子



ひとけのないないカフェに
ひとりこしかけて
降りしきる雨の音に打たれている
注文を取りにくるものもいない


(前線が近づいていると言う予報・・・)


西の窓の近くに
さっきまで
ゾウが一頭すわっていた


のこされた
かすかな名残の・・・その足あと
ぬれ方や薄れ方でそれとわかる


決して ひとなれせず
影のように立ち去る、その気配
 (たくさんのものたちが そうやって)
もうもどってこない


一万年も記憶の水底に沈んだままの場所
かたむいた屋根のすきまから
潮のしずくが漏れている


ほの暗い卓上で
アンモナイトのスプーンが一本
キラと光り
また海の匂いが立ちこめてくる


タコぶね1.jpg
タコブネ

★歩いて行ってしまってどこかで生きのびているのか、跡形もなく逝ってしまったのか、生きものを代表したゾウの影の気配だけが、かすかに残っている場所(カフェ)がある。
私たちはその宇宙的な場所に招待されている。
静かに動いているファンタジーの時間帯に組み込まれている一万年前の場所に海の潮が漏れてくる。
雨水の音や海水の匂いのする場所の時間がつながって流れている縦横無尽な音楽的な場所があるらしい。


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